№13 「野鳥の繁殖期もそろそろ終盤」

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【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】
野鳥たちの繁殖期もそろそろ終わりの時期に近づいてきました。繁殖期に優先的に調査しなければならない鳥は、ケリにミゾゴイ、そして最近ではタマシギも追加しています。ケリはそれなりに調査がはかどりましたが、残念ながらミゾゴイの繁殖確認はかないませんでした。昨年に城陽市のクヌギ村で撮影されたミゾゴイの画像は強いインパクトがありましたが、これが繁殖個体だったのか、それとも渡り途中にたまたま立ち寄っただけの通過個体だったのか、すっきりしないところです。この続きはまた来シーズンに持ち越しとなるでしょう。そして、新たな研究テーマに加わったタマシギですが、これからの調査とその結果に大いに期待しています。
今シーズンの鳥の繁殖期は、当然ながら親鳥たちは子育てに多忙を極めたわけですが、それなりに筆者も走り回りました。思い出深いのはバードウィークの5月11日に愛知県豊田市で開催された日本野鳥の会主催の記念講演会において、バードリサーチ代表の植田睦之博士とともに講師を務める大役を果たせたことです。
今回は鳥の繁殖期に起こった出来事をまとめましたので、ぜひお付き合いください。

 

◆身近でありながらミステリアス

関東のバードウォッチャーにケリのことを聞いてみると「今まで一回しか見たことがないよ」と、たいそう珍しい鳥であるかのような回答が得られ、それを研究していることに妙な優越感を覚えてしまいます。そのいっぽう,同じ質問を関西でしてみると、「ケリなんてどこにでもいるでしょ」「いちいち記録していないよ」と返ってくるのが常であり、地域によってかなりの温度差を感じます。ところ変われば鳥の扱いもかわってくるのですから、おもしろいですね。
このように近畿地方ではごく当たり前にみられる鳥であったケリも、現在では個体数の減少が著しくなっています。最新の環境省レッドリストには、ケリは「情報不足」として掲載されていることからも分かるとおり、ケリの国内での分布状況や生態はほとんど分かっていない現状にあり、身近でありながらミステリアスな鳥と言えるでしょう。
私たち研究グループは、京都府南部の巨椋池干拓地を中心にケリの生態研究をしていますが、その研究目的は、性判別法(外見で雌雄がわかるの?)、配偶システム(本当に一夫一妻なの?)、巣場所の環境選択(どのような環境を巣場所として好むの?)、寿命(そもそも何年くらい生きる鳥なの?)、渡りと分散(渡りをするの? 独り立ちした幼鳥はどこへいくの?)などを解明することです。
これらを調べるにはケリを個体識別する必要があり、ケリの親鳥や幼鳥を捕獲して白・赤・橙・緑・黒などの色足環をつけて、色の組み合わせから個体識別ができるようにしています(写真①②)。その後は足環のついたケリを探索し、確認日と確認場所、繁殖の有無といったデータを収集する地味な作業を続けることになります。

◆ケリは渡り鳥?

とりわけ私が関心をもっているのが、ケリの「渡り」についてです。ケリは一般的には渡りをしない「留鳥」と考えられていますが、ツバメやハクチョウのように、季節的に繁殖地と越冬地を行き来する渡りをしないのでしょうか?
残念ながらこの質問にきちんと答えられる人は誰もいないでしょう。なにせこれらに関する知見は一切ないのですから。
そこで、まずは鳥類標識調査の公式記録として、足環つきのケリがどこで放鳥されて、その鳥がどこで回収されているのかを整理したいと考えた私は、千葉県我孫子市にある山階鳥類研究所に依頼して「近畿地方のケリの標識調査記録」に関するデータを提供いただくことにしました(許可番号:山階保全第30-120号)。処理しきれないほどの膨大なデータが届いたらどうしようかと、期待と不安が入り混じった不思議な気持ちで申請すると、数日後にメール添付された待望のデータが手元に届きました。早速、そのデータを整理したところ、近畿地方でケリが移動したことを示す公式記録は8例あり(写真③)、そのうち移動距離が20km以上と長かったのは次の2例で、それ以外の6例は10km未満の距離にとどまっていました。ちなみに8例のデータはすべて中川宗孝先生か筆者が放鳥したケリでした。
▽7年に大阪府交野市で放鳥→2007年に兵庫県神戸市で回収(写真③:移動距離60km)
▽1997年に京都府巨椋池干拓地で放鳥→1997年に滋賀県草津市で回収(写真③:移動距離22km)
データは8例とまだ充分でないものの、現状では、ケリの移動は比較的近い距離に収まっていることがうかがえます。そのほか、一般のバードウォッチャーからの情報提供により、巨椋池干拓地のケリが滋賀県大津市、大阪府枚方市、奈良県明日香村へ移動した可能性も示されていますが、いずれの記録も残念ながら個体の特定に至りませんでした。
さらに多くのケリの渡りに関する情報を収集すべく、今後も観察から回収記録が得られることを期待し、ケリの色足環の装着とそれの探索に尽力したいと思っております。最近では小型のGPSを野鳥に装着し、衛星通信を介してその移動ルートを追跡するといったビッグスケールな研究も盛んです。いずれはケリでもそんな研究ができればと思案しているところです。

◆思い出深いバードウィーク

日本野鳥の会の大畑孝二レンジャー、川島賢治レンジャー(写真④左)から、「今年の世界渡り鳥の日にあたる5月11日に、豊田市自然観察の森で、第一線で活躍する研究者を招いて野鳥講演会を開催するので、脇坂君のケリの研究を講演してくれないか」といった旨のメールが届きました(ちなみに5月の第2週末はUNEP(国連環境計画)が定める「世界渡り鳥の日」だそうです)。
日本野鳥の会のレンジャーから直々に講演依頼をいただけるとは、私も鳥類学者として認められた証拠だと胸を張れます。もちろん断る理由などはなく、即決でお引き受けしたことは言うまでもありません。講師と演題は以下の通りです。
・植田睦之さん(バードリサーチ代表)「全国鳥類繁殖分布調査で見えてきた鳥たちの変化」(写真⑤左)
・脇坂英弥(日本野鳥の会・ヒトハク地域研究員)「田んぼの鳥・ケリの生活」
講演では、巨椋池干拓地にどのような経緯でケリがすみついたのかといった過去の話題から、現在直面しているケリの苦難、すでに共同研究者とともに論文と学会で発表した研究成果について紹介しました(写真⑥)。講演後には多くの方からご質問やご意見を頂戴しましたが、なかでも「ケリの雛はどれくらいが独立できるまでに成長できるのか?」「ケリの和名の由来は『蹴る』から来たのでは?」といった建設的なご質問は、印象が強く心に残りました。一つ目の質問はまだ研究途中にありますが、恐らくは全体の1割を下回る雛しか親から独り立ちできないのではないかと推測しています(つまり、ほとんどの卵と雛は成長過程で死亡するという現実)。二つ目の質問は諸説あるものの、大人気のイラストレーター・富士鷹なすびさんの作品のなかに「なすびさんを足で蹴っている強面のケリ」(写真⑦)がありますので、満更でもないご意見かもしれませんね。
川島レンジャーから、愛知県豊田市やその周辺にもケリは生息しているものの、それを気にかけて調査や観察をしている人はいないだろう、とうかがいました。今回の講演を通して、ケリファンが一人でも増え、そして愛知県のケリ研究者が誕生してくれたら、これほど嬉しいことはありません。

◆タマシギをもとめて

今年はタマシギにはまっています。ケリ調査の最中にしばしば見かけるタマシギ。少なくとも昨年まではそうでした。もちろん中川宗孝先生とともに鳥類標識調査の一環でタマシギに環境省リングをつけたこともあります。
ケリ調査のついでにできるのなら、タマシギをテーマに何か研究してみるのも悪くない。何より「京都府の希少野生生物」に指定されている種でもあるし、きちんとした生息分布と繁殖状況を把握することは重要ではなかろうか、とそれなりの理由をつけて調査は始まりました。京都府にも学術研究として申請し、標識調査を実施する段取りも整え、気合十分です。
ケリが産卵する季節は田んぼには疎らに雑草が生えている程度でしたが、季節は進み、今では田んぼの稲はずいぶんと伸長し、田面の緑がいっそう色濃くなっています。タマシギはそんな田んぼで観察され、稲と稲の間や畔でひっそりと佇んでいるはずです。ただし夜行性でかつ警戒心の強い鳥なので、見つけるのはそう簡単ではありません。実際に調査を始めると、京田辺市で夜間に鳴き声は確認できたものの、いまだ姿を見ていない状況です。ケリのついでにできると甘く考えたことが悪かったのかもしれません。
日本野鳥の会京都支部の知人に相談すると、「タマシギなんてどこにでもいますよ」と強気の回答とともに、ここ最近の観察記録を惜しげもなく教えてくださいました。タマシギの保全計画に生かすため、そして多くの協力者への恩返しの気持ちも込めて、タマシギの繁殖状況と生息地の情報を研究成果としてまとめることが目標となっています。
この原稿をまとめている当日の午後も、京都府南部へとタマシギ調査にでかける予定です。写真家の山中十郎さん撮影の「タマシギ親子」の姿が記録できることを期待し(写真⑧)、夜を徹しての調査に出発します。調査結果は改めてご報告しますので、ご期待ください。

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