【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
小学校5年生の夏休みの登校日、誰よりも真っ黒に日焼けした小生を見て「夏の申し子」と称されたことを思い出します。当時のあだ名も河童で、おかっぱ頭にツン口の容姿より、得意の水泳に由来するものだと自負していました。大好きな夏、日の出前から木津川河川敷にゲンジ(クワガタ)採りに繰り出し、用水路で無心に魚捕りをした少年時代の思い出は、半世紀を経ても色あせることなくよみがえってきます。
同じく5年生の時、メダカ採集の課題が出され、みんなを引き連れていった成果はわずか10匹程でしたが、他の斑は皆無で、更にきれいなキンタをたくさん採って鼻高々でした。昭和38年のことであり、この思い出の背景には環境破壊の公害問題と外来生物の侵入による生態系の破壊と在来種への影響、現在に至る絶滅危惧生物の歴史の一端が凝縮されています。
当時から田んぼでゲンゴロウやタガメを見ることもなく、幼い頃から通う御旅川という小川や初夏だけ水が流れる用水路でもメダカは目に見えて減っていきました。そして、キンタと呼ぶタナゴに色鮮やかなものが見られ始めたのが小学校低学年の昭和35年頃のことで、「毒流し」と称した漁法が行われた日には、弱ったキンタなどの雑魚をみんなで競ってすくったものでした。それでも、コイやドジョウは浮くのに、ナマズとタイワンドジョウには毒が効かなく不思議に思ったことも覚えています。
そして昭和40年を最後に木津川の夏の風物詩・水泳場が水質の悪化から閉鎖された頃には、小川ではほとんど魚が捕れなくなり、ザリガニさえ見られなくなりました。農薬は水辺の生き物たちの命と共に、子供の遊び場と楽しみを奪い、野外の水が危険な物質へと変わりました。公害ニッポン!高度経済成長の負の遺産の教訓は、半世紀以上を経てようやく修復されつつありますが、現在も河川や池が子供たちの身近な遊び場とは程遠い危険な存在となっていることが残念でなりません。
ナチュラリストの原点は、こうした幼い頃から身近な自然の中の生き物たちと触れ合うことができた体験であり、長じては子供の頃の好奇心が知識と結びついて調査・研究に大変役立ったことも身をもって知りました。木津川最後の川漁師と称された父・中川朝清という元祖ナチュラリストが残した遺産を受け継ぎ、子供たちの体験型自然観察会の指導で次代のナチュラリスト養成を願って啓蒙活動を続けています。
昨年は、城陽市の今池川と木津川の2回の水辺の生き物観察会が台風で中止になりましたが、今年は共にことなきを得ています。ただ、8月18日に八幡市で開催された河川レンジャー主催の「京都子どもの水辺交流会」の魚捕りが、増水で中止になったことは返す返す残念でした。また、和束町でも教育委員会町史編さん室主催の自然観察会に和束小学校4年生の野外実習指導で、清流・和束川に生息するふるさとのお宝生物たちを一緒に確認できてナチュラリストの本分を果たしています。
不運が続いた今夏のゲン直し報告第二弾、誰よりも、自身が一番楽しみにしている自然を教室に、そこに棲む生き物たちを教材の野外実習観察会を覗いてみて下さい。
◎フォトアルバム・夏の「水辺の生き物」観察会
巻頭言に続いて、当地では昔からタナゴ類を「キンタ」と呼んでいました。木津川本流のオオキンタはカネヒラ、支流のキンタはニッポンバラタナゴ(写真①)のことで、観賞用に輸入された色鮮やかなタイリクバラタナゴが、野外定着したのが昭和の30年代始めで、近似種のニッポンバラタナゴを駆逐し、交雑によって種の絶滅となったのは少年時代の体験を基に昭和35年頃としています。木津川で天然記念物のイタセンパラを発見し、絶滅危惧種となった在来のクロメダカの生息を実証し、野生絶滅と思われていた絶滅寸前種のカワバタモロコや同じく絶滅寸前種のホトケドジョウの発見に至って、アマチュア研究者の唱えるニッポンバラタナゴの絶滅年代の自説にも重みが増しています。
ちなみに、昔からタイワンドジョウと呼んでいた雷魚はカムルチーで、両種が混生していて後に淘汰された結果ではないとの説を唱えています。また、当地でタモロコと呼んでいるのはモツゴで、タモロコはギンモロコの俗称で呼ばれています。マジカにイシクイ、ハチナマズなど、初代川漁師の父から学んだ俗称や巨大魚に大スッポンの言い伝えなど、地域の特性を留める魚類資料の充実にも努めています。
さぁ、水辺解禁のお楽しみ、今年も城陽PS会議主催の「今池川水辺の生き物観察会」が7月7日に開催されました。(写真②) これまで、京都府の希少野生生物の絶滅寸前種・ダルマガエルや背中線のあるヌマガエルが発見されたこともあり、モクズガニや雷魚の稚魚に歓迎されないグッピーの生息など話題に事欠かない楽しいフィールドで生き物探しです。
冒頭の挨拶で、井手邦彦・自然部会長(中央)が『ここで40㌢のスッポンを観ました!』との発言に一同仰天です。例年のメイン講師の岡井勇樹君(左2)や木津川漁協の支部長・中川幾久夫さん(上中)、ジュニア優樹君たち筆者のスッポン漁の相棒たちも、もし捕獲できれば日本一の記録更新とばかりに期待したのですが…。調査続行中です。WANTED!
そして早9月、今年のスッポン漁はイマイチでしたが、河川レンジャー主催の「とのっ子探検隊」の観察会用に設置したモンドリで、2日間で計8匹を捕獲してシーズン最後の帳尻合わせです。(写真③) 実は、観察会当日はナマズに小魚、モクズガニに他のカメは入っていたのですが、期待したスッポンは空振りでした。それでも、かわいい仔スッポン(写真④)が捕れ、「京都府の自然・動物部門50選」に於いての「イタセンパラが生息し、スッポンが繁殖する城陽市・木津川右岸域」の選定を裏付けることができました。次回の観察会では、イタセンパラ再発見!を期待しての記念撮影です。(写真⑤)
今年から河川レンジャーとして八面六臂の活躍の山村元秀先生(写真⑥左)には、和束町の野生生物生息調査や自然観察会でもお世話になっていて、植物や昆虫などの解説をお願いしています。6月9日のこの日の総合観察会では、和束川のお宝生物・スジシマドジョウにアカザ、カジカガエルを捕獲確認し、やはり捕らえたシマヘビでパフォーマンスです。(写真⑦⑧)
豊かな自然に恵まれた和束町の中でも、和束川の清流とそこに棲む生き物たちは郷土の宝です。和束小学校の赤司先生(写真⑨)の計らいで実現した4年生の野外実習授業でも、子供たちがドンコやシマドジョウ、アカハライモリといった初めての生き物たちを自ら採集して確認できたことは、エコキッズ誕生のきっかけとなる未来に活きる体験となったものと期待しています。(写真⑩)
そして、特筆すべき成果のひとつに、和束川の中洲でイカルチドリとイソシギが繁殖期特有の偽傷行動するのを観察し、先ずはイカルチドリの巣卵を発見してみんなに見てもらいました。(写真⑪) こうした自然観察会や野外実習授業で確認したレッドリストに記載の希少生物たちの記録は、公的条件を充たす郷土の環境資料といえるものです。これら和束町の豊かな自然環境を実証する野生生物たちの生息記録の全容を、12月の京都環境フェスティバルで公表すべく燃えています。