【第297号】続々・ハッピーライフ フィールド冬支度

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
フィールド最盛期にベッドにしばりつけられ、心身ともに疲れ果てた「ブラックセプテンバー」が明けた10月、あらためて日々健康でライフワークに打ち込める恵まれた境遇に感謝し、これからもナチュラリストとして郷土の希少野生生物と生息環境の保全に貢献できる調査資料の公表でその責を果たしたいと願っています。そして早速、復帰祝いの朗報も矢継ぎ早に届いて、最高に楽しい超多忙な晩秋の日々を過ごし、活動報告のハッピーライフも続々編を迎えています。
この間、数々の雑多な話題の掲載も、詳細報告に紙面を割くことなくトピックスに終始しましたが、ここにきて和束町の野生生物生息調査でもようやく胸を張れる成果が得られ、ケガによる延期を余儀なくされた地元の方々への今後の聴き取り調査にも弾みがつきました。郷土の環境資料と豪語する鳥類目録や野生生物生息リストも、フィールド調査と共にこれら聴取による生き物たちの俗称やいわれなど、民俗学的な記録の掘り起こしの重要性を実感している昨今です。
ナチュラリストの代名詞・「南山城鳥類目録」といえども、頼もしき協力者と理解ある支援者の存在なくして科学的価値の高い公共資料と認められるものではありません。現在、フィールドの冬支度を前に今年度の調査資料を見直し、目前に迫った京都環境フェスティバルでの公表資料の作成に取りかかっているところです。
鳥類学者の脇坂英弥君は、島根県で「チフチャフ」という日本初記録となる野鳥を発見したことで知られていますが、元祖・子ども鳥博士の岡井勇樹君は、兄弟子に負けじと新種発見の探鳥地巡りをライフワークにしています。そして今秋、日本でも極々稀れな観察記録しかない大珍鳥を発見し、究極の目標を視野にとらえています。今回、そんな珍しい野鳥の紙面紹介と、新分野開拓にまつわる話題をお届けします。
年間最大行事と位置付ける「日本爬虫両棲類学会」と「日本鳥学会」での研究発表を不慮の事故で逃した今年度、やはりナチュラリストの年中行事となっている12月7・8日に京都パルスブラザで開催される「京都環境フェスティバル」に於いて、活動母体の「城陽パートナーシップ会議」と野生生物生息調査に携わる和束町のブースで資料の公開と解説を行っています。是非のぞきにいらして下さい。

◎充実のライフワーク・和束町のコウモリ調査の展望

バンディングと呼ばれる環境省の標識足環を装着して放鳥する鳥類標識調査は、野鳥保護に欠かせない渡りのコースや寿命といった生態解明のデータ収集を目的としたものですが、公式な鳥類の生息記録を示す郷土の環境資料としての意味合いがあります。もう30余年も前、巨椋池干拓田のコミミズクを顔で個体識別し、「毎年同一個体がシベリアから飛来している!」との自説を実証するために鳥類標識調査員となって目的を果たし、「環境庁・鳥類観測宇治川2級ステーション」に属する各地の鳥類生息調査に従事して、今日の「南山城鳥類目録」の礎を築いています。(写真①学会配布資料)
「日本動物植物専門学院」の野外実習講座にも取り入れ、内弟子として卒業後も標識調査に携わってきた脇坂英弥君は、ケリの研究で学位を取得し、現在は京都府から南部全域の担当者として調査記録の報告が求められている鳥類学者となって、今や脇坂センセイのサポートに徹している旧鳥人ナチュラリストです。今年はアオシギにミゾゴイから始まり、夏場のタマシギやコアジサシなど、京都府のレッドリストに記載の希少鳥類の調査ではことごとく外して志気が上がりませんでしたが、ケリの継続調査では今年も大きな成果が得られ、12月15日に「日本鳥類標識協会大会」で脇坂君(写真②中)が研究発表を行います。
11月の和束町の定期調査では、夏の和束川の生き物観察会に参加してくれたという地元の小学生の親子に声をかけていただき、標識調査を披露して足環をつけた野鳥たちを一緒に放鳥するという嬉しいひと幕がありました。(写真③) 調査モードでのいかつい顔も自然とほころぶエコキッズの輝く目を前に、来年度は鳥類標識調査の公開観察会の実施で、子ども鳥博士養成講座を開催したいとの想いを募らせました。
脇坂英弥君と並ぶ鳥類調査の主要メンバー・岡井勇樹君(写真④右)は、小学生の頃から自然観察会とケリやコアジサシなどの標識調査にも参加してきた生え抜きのエコキッズで、野鳥識別に秀でた能力で天賦の才を発揮しています。今秋、石川県能登半島沖の舳倉島で発見した鳥が、図鑑にも載っていない「ヒメウタイムシクイ」であることの写真鑑定依頼を託され、識別の大家・大西敏一氏によってお墨付きをもらっています。いずれ図鑑にも追加される大珍鳥の紙面公開です!(写真⑤)
こうしたナチュラリスト冥利に尽きる発見が、新たなフィールドの夢を運んできます。鳥類から両生・爬虫類に淡水魚、水棲昆虫まで、幾多の希少生物の発見が自慢のナチュラリストが、現在のメインフィールドとする和束町の調査でターゲットに挙げているのが絶滅危惧種の淡水魚・スナヤツメであり、南山城地方ではアブラコウモリ以外公式な記録がないコウモリの仲間の生息確認です。
そんな折、10月26日の和束町・生物調査報告会でお手伝いいただいた地元の方からの耳よりな情報を得て、脇坂英弥君共々下見の調査に赴きました。京都府のレッドデータブックでコウモリの解説をされている奈良教育大学名誉教授の前田喜四雄先生(写真⑥左)とは、我が家名物・木津川産天然スッポン鍋の懇親会にもご夫婦で来ていただいていた間柄でしたが、この20年間はとんとご無沙汰していました。
昨年度より和束町の生物調査に携わるようになった矢先、「サイエンスキッズ夏祭り」で前田先生と再会し、「東洋こうもり博物館」主催の観察会にも参加し、以後も博物館の奥村一枝さん(写真⑦)に調査方法の指導や和束町での古い文献資料をいただき、来春の調査協力の快諾も頂いています。そうして迎えた11月10日の下見では、地元民の情報通り、隧道の天井にコウモリを見つけ、アブラコウモリでは無い大小3頭のコウモリを確認してそっとその場を離れました。(写真⑧⑨)
絶滅指標の最も高い絶滅寸前種では、哺乳類9種類の内コウモリが7種類を占め、残り3種類の希少種を含めて、南山城地方では記録がなかったこれらの発見が来シーズンの最大目標です。ホットな生き物情報の朗報とフィールド復帰の喜びで、慢性的なふところの寒さを補うハッピーなニューイヤーを迎えられる予感の令和元年師走の始まりです。

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