【第327号】新型コロナ緊急事態宣言を憂えて

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【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】

「城陽環境パートナーシップ会議」の今年の初イベント、2月14日の「古川自然観察会」に向けて士気上がるナチュラリスト軍団に、1月13日に発令された新型コロナウイルスの緊急事態宣言は、今年こそ!との想いに水を差す再び活動自粛を強いられる憂鬱な幕開けとなりました。
もう30年も前から、流域の小中学校の野外実習授業や「城陽生きもの調査隊」主催の観察会が開催されてきた古川に於いて、城陽環境PS会議では市内の主要フィールドの生息鳥類の経年変化や希少種の記録など、郷土の環境資料作成を目的とした自然観察会を例年2月の活動イベントとしてきました。今年も城陽市の広報に於いて既に参加申し込みも始まった古川自然観察会でしたが、行政が関わるイベントの開催は全て中止となって、富士鷹なすびさんデザインのエコバックの進呈や昨年のコウノトリの絵はがきセットに続いて、今年もカワセミにチョウゲンボウ、ケリといった作品の配布を予定して力が入っていただけに拍子抜けです。
今回はメイン講師の脇坂英弥君に、環境省の標識足環を装着するバンディング調査の公開もお願いし、鳥類研究最前線の話題から野鳥保護への理解を求める啓蒙活動の実践で、アフターでは昨年繁殖が確認された希少猛禽類・チョウゲンボウの特製巣箱の設置も予定していてかえすがえす残念でなりません。内輪の調査も少人数で…とのお達しの中、兵庫県加古川市に滞在しているコウノトリ・ひかりちゃんの再飛来の朗報で、コロナ鬱を吹っ飛ばしてほしいものです。
さて、ナチュラリストといえど、この様な自然環境保全や野生動物たちの保護に優先すべき政策や福祉などの課題が数多くあることは重々承知しており、このコロナ禍に於いての国の医療や経済対策への期待と、入試シーズンを迎えた受験生たちが万全の状態で試験に臨めることを祈りつつ、フィールドにも”春”が来ることを待ち望んでいます。コロナに負けず、大手を振っての活動再開を楽しみに、フィールド派ナチュラリストも充電期間と考え、映像資料や文献調査で緊急事態宣言下の日々も実りあるものにしたいと前向きに考えています。
新春第二弾は、恩師の先生方やゆかりある高齢の人たちの長寿・健康の願いを込め、おめでたい鶴亀の話題でコロナ厄払い報告です。こだわりが強い、ナチュラリストの生き物巷談四方山話にお付き合い下さい。

◎生き物フォトエッセイ

前回、丑年のニホンカモシカの話題に関連して、絶滅の危機にある希少生物も復活の果てに有害鳥獣として駆除される事例を紹介しました。早速、嬉しい便りが届いて、リアルタイム・フィールド通信を補うこれら生き物たちの話題も、自然保護への提言となり得ることをあらためて実感し、これからも雑多な生き物たちの四方山話をお届けしたいと考えています。
先ずは前回の年始の暦換えで、鉄道マニアでもあるナチュラリストのJR西日本のカレンダーを掲載し、鉄道や生き物暦は捨てきれずに溜まるばかりです…と記した手前、書斎の本棚の上に山積みしているカレンダーを見直す機会となりました。もう30年も前の野鳥カレンダー(写真①)を手にし、当時、保護活動にがむしゃらに取り組んでいた若き日の自分自身から、時空を超えて励ましのエールが届いたようでテンションも上がりました。
1990年の日本鳥学会の金沢大学大会では、現在の脇坂英弥君の研究に引き継がれる巨椋池干拓田のケリの生息・繁殖状況の研究発表と共に、江戸時代の宇治の文人茶師・上林清泉の「鳥禽之図」を公表しています。翌1991年の立教大学大会では、関西学研都市開発予定地のオオタカ保護活動に、鳥学会の総会決議の採択を得て自然林23㌶の保全が叶った思い出がよみがえります。マスコミの学会同行取材や科学番組からのオファーもあり、鳥類研究者の仲間入りを果たした実感を得て燃えていた頃の記録が刻まれた懐かしい暦も、ナチュラリストの大切な宝物です。
そして今年も、実りある一年の記録を留められることを願ってのお宝カレンダーが、今や定番の「ワイルドライフ」と「絶滅危惧種カレンダー」です。(写真②③) 前者は北海道新聞社、後者はワケングループと京都精華大学、京都国際マンガミュージアム事業推進室によって作成された大人気シリーズの手に入りにくい貴重品です。
ワイルドライフの1月を飾るのは、昔から長寿のおめでたい鶴として知られるタンチョウ(写真④山中十郎氏撮影)で、北海道の鳥に指定されている特別天然記念物です。かつては絶滅したものと思われていましたが、餌付けによる保護が実を結んで繁殖地を拡げています。前号でも同じく特別天然記念物のニホンカモシカが、絶滅から復活した果てに指定解除の動きや害獣として駆除された暗い歴史を紹介ました。そして今年、富野小学校生き物クラブの生徒が、絶滅危惧種のタンチョウのランクを下げる8月11日付「毎日小学生新聞」の記事を持参してくれましたが、本来、絶滅の危機を脱して指定解除されることは望ましいことではあるものの、その判断基準となる科学的根拠の信憑性が問われるところです。
そして、絶滅危惧種カレンダーの1月は、やはりおめでたい長寿の象徴・ニホンイシガメをメインに、日々絶滅に瀕する希少野生生物のイラストを配し、10日にはクサガメが掲載されています。(写真⑤) 日本では、クサガメは江戸時代に大陸から持ち込まれた外来生物ですが、世界的にはニホンイシガメのNT・準絶滅危惧種よりランクが上のEN・絶滅危惧種に相当する存在です。ここでも、本来の種自体の貴重性も生息地や環境条件によって変わることが分かります。
外来亀の代表種・ミシシッピアカミミガメは、環境省も危機的状況と駆除を奨励していますが、近年になって外来種と判明したクサガメでは、積極的な駆除には至っていません。現在、生息環境の悪化とアカミミガメの駆逐によって急激に生息数を減らしているニホンイシガメにとって、クサガメとの交雑によるDNA汚染が問題になっています。2009年5月4日には、ひと朝に14匹のイシガメを捕獲して標識放流しています。(写真⑥) 以後、急激に個体数を減らし、近年は研究者の協力要請にも十分に応えられずにいます。
今年もお正月から古川にカメ罠を仕掛けて、希少なイシガメをゲットした松井優樹君(写真⑦右2)と、河川工事で生息環境が悪化する古川のイシガメを保護飼育し、繁殖させて稚亀を放流するプロジェクトを企画し、お父さんに繁殖池を造ってもらって今年からの本格始動も、やはりコロナの不安がつきまとっています。昨年は新種登録されたナガレカマツカを一緒に発見した優樹君は、小学3年生で「日本爬虫両棲類学会大会」の研究発表に名を連ねた期待のジュニアメンバーです。おなじく昨年のコウノトリ・ひかりちゃんが縁で仲間入りした中学生の福井惇一君(同左)は、熱心な野鳥観察で貴重な発見も相次ぐラッキーボーイで、鳥類学者・脇坂英弥君の後継者として期待されています。この日は京田辺市の神社で飛べずにいたツグミを保護し、安全な場所に放鳥しました。
フィールド活動の自粛でのインドア・ライフワークに、映像資料の整理と蔵書や文献資料の点検が加わり、興味深い報告ネタもたくさん見つかりました。以下、次号で。

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