第33回「紫式部文学賞」を受賞した角野栄子さん(88)の受賞者講演会「ちいさな話のおおきな世界」が18日、宇治市文化センター大ホールで開かれた。
受賞作「イコ・トラベリング1948ー」は、角野さんの自叙伝的物語。主人公「イコ」が、英語の授業をきっかけにアメリカへと思いをはせる。連合国の占領下、自由に目覚める少女時代を、軽快かつ奔放に描いた作品。
角野さんは、自身が20代半ばでブラジルに渡った際、近所に住む家の少年から、感情や動作を交えて単語を教わったことを例に「音のリズムに乗って、全然わからない言葉が、だんだん形を持って分かるようになる」とし、言葉の持つ「不思議さ」を体験したと語った。
日本の国語の授業でありがちな「登場人物はこの時どう考えたでしょう」の問いかけに関し「何か答えを書かなくちゃいけない…教育とはそういうものだと言われればそうだが…そんなの勝手でしょと思うわけ」「もっと自由に、広げて考えても良いのかなと思う。私はテーマを込めないで、言葉の音とか、リズムとかに、私の持っている世界を表そうと思って書いている」と述べた。
また、物資が乏しかった戦時と豊かな現代を比べつつ「言葉が変化する時代を私は経験した。自由に話せるというのは豊富な言葉を持つことで、それが平和につながる。自分の言葉を持たなければ」「日本人は隣の人と違うと困っちゃうみたいなところがある。良い性格かもしれないが、これからの社会はそればかりでは生きていけないと思う。自分の中に長年蓄えてきた言葉が、他人を説得するし、存在感を表してくれる。本を読むということは、人を作ること。たくさん本を読んでほしい」と話した。
この日は講演に先立ち、今年度の紫式部文学賞と市民文化賞の贈呈式が開かれた。なお、贈呈式と講演会の模様は、後日宇治市のYouTubeチャンネルで配信される予定。